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気管切開のこと

気管切開で悩む人がいると思うので、気管切開をして1年半娘をみてきた経験を書いておきます。

まず最初は気管切開をして大変なこと。

1.毎日のケア。気管切開をするとカニューレというものを喉に刺し、それを固定するために首にバンドを巻いて切開部にガーゼを当てる。清潔を保つために毎日首を清拭してガーゼとバンドの交換をする。だけど娘が交換に慣れるまでが大変だった。生後約7カ月で気管切開したけど、この頃は常に人工呼吸器で呼吸の補助が必要で交換中に蛇管が邪魔になるし抵抗して力が入りチアノーゼになることがあった。病院でずっと練習していたけれど嫌で嫌でストレスだった。でも娘が徐々に慣れていき4カ月ほどで抵抗もなくされるがままになった。現在では呼吸器がなくてもしばらく平気だし抵抗することはほとんどないので一人でもガーゼとバンドの交換ができる。

 

2.清潔を保つのが難しい。お風呂に首までつけることができず首をしっかり洗ってあげることもできないので毎日清拭していても垢がたまっていく。特に吐いたときは念入りに拭いてあげるけど、こすればこするほど垢が出てくる。不潔による感染症が怖い。

 

3.カニューレの交換。娘は2週間に1度耳鼻科に行きカニューレを交換してもらっている。カニューレの交換なら俺でもできるけど先生に診てもらえることで安心感がある。でも2週間に1度の通院は大変。

4.切開部の傷。幸いなことに娘は切開部が化膿したりしたことはまだないけれど肉芽は時々できている。毎日の処置が必要になると処置するのに難しい場所なので大変。

 

5.痰の吸引。気管に異物があるのでどうしても痰が増える、そうすると吸引が必要。娘はひどい時、2017年の1月~3月頃には毎日ではないけどしょっちゅう15分に1度くらいのペースで吸引していた。夜まともに寝られないし、もし痰が詰まったらと考えると熟睡するのが怖くなってしまう。この頃は週に2・3日は徹夜で仕事に行っていた。

6.蛇管の水抜き。ちょっと忘れていると水が気管に入りむせたり嘔吐の原因になる。夜間でも定期的な確認が必要で大変。

 

7.着替え。かぶるタイプの服は着れないので娘には前開きやロンパースしか着せていない。昔は着替えだけでもかなり気を使った。今は人工鼻に変えて素早く着替えている。

 

8.声が出せない。発声ができないので苦しい時に気が付きにくい。娘は大きくなるにつれてカニューレに隙間ができるようになったのか機嫌が良いと声を出すようになった。

 

9.必要な医療機器が増える。気管切開してカニューレを刺したら気道確保できて自発呼吸ができるようになる子もいるとは思う。でも人工呼吸器を使うことになることの方が多いはず。​そうすると人工呼吸器以外にモニター・吸引機・酸素ボンベは最低限必要だし、緊急時用にアンビューやカニューレも近くに置いておく必要がある。家にこれらの医療機器を置いておくだけでも場所をとるのに、受診とかで外出することになると娘の状態では一人で対応できず夫婦で外出することになる。荷物は多いし、車の乗り降りで娘に負担をかけるしで慣れるまで怖かった。初めて退院して家に帰るとき、家までたったの20分ほどの移動でアラームは鳴りまくるし娘は苦しそうにするしで口の中がカラカラになったのを覚えている。

余談だけど、こんな状態だったのに呼吸器障害で障害者手帳と一緒に申請した特別児童扶養手当では2級との判断だったのでちょっと怒ってお手紙を4枚ほど書いて県庁の福祉課まで話し合いに行った。認定基準の話をしても役人の理屈では自分たちが2級と判断したわけではなく専門の医師が2級と判断したのでどうしようもできないとのことで、まあこれが役人の仕事なんでしょうがない。結局障害者手帳で呼吸器以外も1級になったので複合で数か月後に特別児童扶養手当も1級になった。

10.電気が必要。医療機器を動かすためには電気が必要。移動では充電や電源の確保が必要だし、もし災害で停電が続いたらと考えると怖い。

11.呼吸器依存症になる。娘は気管と喉頭の軟化症で自発呼吸ができないでいる。娘はもうすぐ検査をするけどもし仮に軟化症が治っていて切開部を閉じられるとしたら。もちろん良い事だけど脱呼吸器をしてもし無呼吸発作が出てしまったら、と考えると怖い。今までは呼吸器が自動で空気を送っていたけどそれがなくなったら自分たちで対応しなければいけない。発作が出た時に気が付いてあげられるだろうか、今まで呼吸器があるおかげで発作が出ていなかっただけかもしれないとか考えてしまう。

​12.肺の状態が悪化する。医師より聞いた話だけど呼吸器を使用していると肺の毛細血管が痛み、本来であればブドウの房みたいになっている肺胞が潰れて団子みたいな状態になり十分な換気ができなくなるとのこと。

13.感染症が怖い。普通に呼吸するのであれば鼻や口などフィルターを通して空気を肺に取り込んでいるようなものだけれど、気管切開すればほぼ直接肺まで空気が行くことになる。

14.気管腕頭動脈瘻。気管近くに通っている腕頭動脈に傷がつき大出血する。発生率は低いけど発生すると致死率は高い。

だいたいこれくらいのことを常に意識している。

次に娘が気管切開した経緯。

娘は産まれた時から自発呼吸ができなくて挿管されていた。でも呼吸器の設定は低く、しばらくすると息を吸う際の軽い補助と気管に陽圧をかけるだけで呼吸ができていた。主治医からは抜管できる可能性があると説明され何度か抜管に挑戦した。次は3000グラムを超えた時に挑戦しましょうと言われ、3000グラムに近くなった頃これでダメだったら気管切開しましょうという話に突然なった。小児科の判断では3000グラムで抜管できなかった場合は何か原因があるはずなのでちょっとの成長では改善される見込みはなく、しばらくの間(年単位で)自発呼吸できる可能性はないとのことだった。

3000グラム過ぎた時、喉から気管にファイバースコープを入れる検査をして呼吸のたびに気管が楕円に潰れるのが確認されたので気管軟化症との診断がついた。管の交換時に抜管した状態で様子をみたけどやはり自発呼吸では苦しかった。抜管という選択肢はなくなり、このまま挿管か気管切開のどちらかに決めなければいけなくなった。

実質挿管したまま何年も過ごすというのは不可能なので気管切開することになった。

娘のいた病院では3000グラム以上が気管切開の適応だったけれど、よその病院では2000グラム以上が適応ということを他の18っ子のお母さんから聞いた。カニューレの最小サイズが2000グラム以上の赤ちゃんから対象だからというのが理由だった。

気管切開をして上に挙げたように大変なことは多いけれど、それでも気管切開をして良かったと思っている。次はそれを挙げていく。

1.挿管していた時より身体的に負担が少ない。喉から異物を肺の近くまで突っ込んで、気管チューブが動かないように顔にテープでべったり固定している。ストレスにならないわけがない。テープで顔の動きも抑制されるので娘は気管切開前はほとんど表情がなかったのに気管切開後は表情が増えた。

2.娘は挿管中はあまり動けないように拘束されていた。だから産まれてからずっと動かず寝ているだけの状態。リハビリをしてはいたけれど身体の発達は遅く動きも悪かった。しかし気管切開後は動ける範囲が広がり徐々に頭を挙げてお座りに近い状態にしていったり全身のリハビリができるようになった。

3.チアノーゼがなくなった。挿管中はほぼ毎日で多い日には複数回体が真っ黒になるほどのチアノーゼを起こしていた。その度に医師や看護師がバギングで対応していた。気管切開後も気切部のガーゼ交換などストレスになることをしたときなど時々はチアノーゼを起こしていたけれど、それが徐々に減っていき退院前くらいからはチアノーゼを全く起こしていない。

4.抱っこしやすくなった。挿管中は看護師の付き添いの元、気管チューブに気を付けて抱っこしていたけれど気管切開後は呼吸器の蛇管を外せば移動できるのですぐに抱っこしてあげられるようになった。

5.呼吸器をつけていると呼吸にエネルギーをあまり消費しない。呼吸器に障害があると一日のカロリー消費量は跳ね上がりあまりミルクの量を増やせない18っ子には負担となってくる。娘は呼吸器をつけて呼吸が楽なおかげか2017年9月頃から今現在までミルクの1日の量は最大700mlと変わっていないのに体重は右肩上がりで増えている。1歳8カ月頃からアイソカルジュニアを使うようになったけれど、カロリー計算してミルク700mlと同程度のカロリーにしている。最大700mlだけど、よく吐くので消化具合を見てミルクの量を調整しているせいでほとんど700ml入れたことはない。それでも体重は増える。

6.在宅に移行できる。医師より挿管中では退院の許可が出せないと言われた。気管切開したおかげで家に連れて帰ることができた。

7.緊急時に呼吸器が自動で空気を肺に送り込んでくれる。無呼吸発作などがあっても呼吸器があるっていう安心感がある。心肺停止した時にバギングしながら胸部圧迫は難しいので胸部圧迫に集中できる。

正直気管切開をすると大変なことの方が圧倒的に多いけれど、それでも気管切開してからの娘の表情や動きを見ると気管切開して良かったと思え日々の苦労はどうでもよくなる。娘はバンディング→気管切開→心臓根治術と手術を乗り越えるたびに表情や動きが良くなっていっている。バンディングをしたから気管切開ができるまで大きくなれたと思うし、気管切開をしたから呼吸に余分なエネルギーを消費せず心臓根治術ができるまでの体力をつけられたと思う。

 

しなくてもよい手術ならするべきではないと思うけれど、もし医師より気管切開を勧められて悩んでいる方がいればこんなこともあるんだと参考にしてもらいたい。ただ気管切開をした子供の面倒を見るのは本当に大変なのでそれだけは覚悟して欲しい。

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